【さえりさん連載】恋する女子には、映画と紅茶【#1】 恋愛における大きな過ち~『ルビー・スパークス』

SIGN(サイン)

2016.12.16


はじめまして! フリーライターのさえりです。

「恋をしている25歳に効く映画を紹介してほしいんです」と言われ、連載を始めることになった。

わたしは恋の達人でも映画マニアでもないけれど、好きな映画から恋のヒントはたくさんもらってきた。そのヒントたちが少しでも、恋に悩む人に届くように。 

“恋女子映画”、これからよろしくお願いします。


恋の大きな過ちのひとつに「自分を押しつけてしまう」というものがある。

関係がうまくいっているときはいい。「お互いを思いやって生きていこうね」なんてゆったりと微笑む余裕がある。多少のわがままだって、簡単に乗り越えられる。

問題は、うまくいかなくなっているときだ。どちらかの心に不安や不満が蔓延しはじめるとき、こういう喧嘩が起こりやすくなる。

「どうしてわかってくれないの?」
「なんで連絡くれないの?」
「なんでそんなことで怒るの?」
「なんでいちいちそんなこと言わなきゃいけないの?」

互いの「自分の欲求」のぶつけ合い。
こんなのはダメだ、自分の理想を押し付けるのは違う。そんなことはわかっているのに、わかっていても、期待してしまう気持ちが溢れ出る。

「本当に好きならありのままを愛せるはずだ」なんてよく言うけれど、そんなよくできた人に、はじめからなれやしない。それに欲求をぶつけ合う恋にだって「本当の好き」はある。

大好きで、一緒にいたいからこそ、冷静でいられなかった。それはなぜだろう。


そんな苦い思い出がある人(または苦い自分真っ只中の人)にこそ観て欲しいのが、『ルピー・スパークス』だ。

この映画には恋愛の全部が詰まっている、とわたしは思う。
恋に落ちていくキラキラとした瞬間から、互いが近づきすぎてしまったり、それを離そうとして起こる不安だったり。

(ちなみにネタバレはしないので、安心してほしい)。


ルビー・スパークス

出演:ポール・ダノ, ゾーイ・カザン, アネット・ベニング, アントニオ・バンデラス
監督: ジョナサン・デイトン, ヴァレリー・ファリス
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

パッケージの裏に書いてある「『リトル・ミス・サンシャイン』の監督と『(500)日のサマー』のスタジオが贈る……」という文字を見ただけで「観たい」と思った。期待を裏切らない映像の美しさで、この物語は始まる。

ストーリーはこうだ。

小説家・カルヴィンは、夢に見た理想の女性・ルビーを主人公にした恋愛小説を書くうちに彼女に恋をしてしまう。するとある朝、現実世界に「ルビー」が現れた。しかも自分が書いていた設定そのままに……! 

理想の女性が、そっくりそのまま現実に出てくる。しかもその後もカルヴィンが「彼女はフランス語が堪能だ」と書けば、たちまち彼女はフランス語を話す。

つまり彼女は、彼の思い通り。彼女は無条件に自分を受け入れてくれる。

……けれどこの恋愛は、やがて「普通の恋愛」へと変化していく。時が経つにつれ、ルビーにも“自我”が芽生えるのだ。カルヴィン以外に興味が芽生えたり、彼に対して怒りっぽくなったり。

そうしてカルヴィンは再び「ルビー」を思い通りに操るべく、タイプライターを叩く。

「ルビーはカルヴィンなしでは生きられない」「ルビーはいつも笑っていた」、「ルビーは元どおりになった」、「ルビーは……」。

彼女の心を繋ぎ止めようとするカルヴィンは……と、ラストまで書きたい気持ちは山々なのだけれど(むしろラストこそ語りたい)、ぜひこれは自分の目で見て欲しい。


はじめて観た時、涙がぼろぼろと溢れてしかたがなかった。

上手に距離を保てなかった恋がある。わざと距離をとってダメになった恋も、近づきすぎてダメになってしまった恋も。

きっとカルヴィンは、わたしは、いや、わたしたちは、「好き」を上手に扱えなかったのだ。ただただ、恋に対して“未熟”だった。

けれど救いは、それを覚えていることだとわたしは思う。苦い思い出を忘れずにいられること。それ自体、幸福なことだ。だっていつか本当に大事な人に出会えた時に「やさしい恋をしよう」と決意できるから。

うまくいかなかった恋があった人には、とにかくラストが響くと思う。ファンタジー要素の溢れた映画だからこそ、よけいに現実にグイと連れてこられる感覚。

これ以上は説明しなくても、きっと感じてもらえるだろう。

あたたかな紅茶と、余韻のためのたっぷりとした時間を用意した上で、ぜひ。



♡さえり♡
90年生まれ。書籍・Webでの編集経験を経て、現在フリーライターとして活動中。 人の心の動きを描きだすことと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。 好きなものは、雨とやわらかい言葉とあたたかな紅茶。 Twitter:@N908Sa (さえりさん) と @saeligood(さえりぐ)